ビジネスプロセスの位置づけの変遷と、AI時代における再定義

ビジネスプロセスは、企業活動の中で常に重要な役割を担ってきました。しかし、その位置づけは一貫して同じだったわけではありません。時代背景や技術の進展に応じて、プロセスに期待される役割は大きく変わってきました。

本稿では、ビジネスプロセスの位置づけがどのように変遷してきたのかを振り返った上で、AIの登場によって今まさに求められている「再定義」について考えてみたいと思います。

〜1960年代:属人的業務の全盛期

高度経済成長期以前、業務は個人の経験や勘、熟練に強く依存していました。仕事のやり方は暗黙知であり、属人的で、再現性は高くありません。

  • ベテランがやればうまくいく
  • 引き継ぎは口頭が中心
  • 業務は「覚えるもの」

この段階では、業務をプロセスとして定義し、管理する必要性はまだ限定的でした。

1970〜80年代:標準化と管理のためのプロセス

企業規模が拡大し、人員が増えるにつれて、属人性は組織運営上のリスクとして認識されるようになります。この時代にビジネスプロセスは、

  • 誰がやっても一定の成果を出す
  • 手順を守れば品質が担保される

ための管理の仕組みとして整備されました。

マニュアルや規程、職能別組織の中で、プロセスは「守らせるもの」として位置づけられていきます。

1990〜2000年代前半:ERPによるプロセスの固定化

1990年代後半から2000年代前半にかけて、ERPが急速に普及します。財務・購買・在庫・人事といった業務が統合され、全社で同じ業務プロセスを使うことが重視されました。

この時代の特徴は、

・プロセスは事前に定義できる

・To-Beは「ベストプラクティス」として与えられる

・統合と標準化が最優先される

という前提にあります。

ビジネスプロセスは、選択し、導入するものとして扱われ、改善よりも「揃えること」に価値が置かれていました。

2000年代後半〜2010年:プロセスを取り戻す動き

ERP導入が一巡すると、次のような課題が顕在化します。

・柔軟な業務変更が難しい

・例外対応がシステムの外にあふれる

・部門間をまたぐEnd-to-End視点が弱い

この反動として、BPMやEnd-to-Endプロセスといった考え方が再評価されました。

この時代は、改善一色というよりも、システムに固定されたプロセスを、再び設計対象として捉え直す時期だったと言えるでしょう。

2010年代後半〜2020年代前半:デジタル技術と自動化の時代

クラウド、API、RPAなどのデジタル技術が実用段階に入り、プロセスは「どう設計するか」よりも、
**「どこを自動化するか」**という観点で語られるようになります。

  • 個別業務単位での自動化
  • 人手作業の削減と処理速度の向上
  • 効率化を主目的としたデジタル活用

ビジネスプロセスは、デジタル技術を適用する対象として位置づけられました。一方で、部分最適や全体複雑化といった新たな課題も生まれます。

2010年代後半〜:データ駆動型プロセスへの転換

同じ流れの中で、もう一つ重要な変化が起きます。それが、プロセスマイニングをはじめとするデータに基づくプロセス把握と改善です。

  • 実際の業務ログに基づく可視化
  • 想定プロセスと実態の乖離把握
  • KPI・PIによる継続的モニタリング

これにより、ビジネスプロセスは**「描くもの」から「観測し、評価するもの」**へと位置づけを変えました。プロセスは、守るものでも入れるものでもなく、測り、改善し続ける対象になったのです。

AI時代における再定義(現在進行形の問い)

ここから先は、特定の年代として整理できる段階にはまだありません。しかし、AIがビジネスプロセスの中で担う割合が大きくなるにつれて、これまでとは質の異なる問いが浮かび上がってきています。

従来の業務プロセスでは、申請書や承認フロー、ワークフローといった仕組みによって、人の役割や判断ポイントがあらかじめ明示されていました。

どこで判断し、誰が承認し、どのルールに基づいて処理されるのか。それらはプロセス設計の中に組み込まれていたのです。

一方、AIが業務の多くを担うようになると、この前提は変わります。

例えば、生成AIに領収書の画像を投入すると、内容を読み取り、勘定科目を判断し、条件を満たせばそのまま決済が進み、経費が支払われる。こうした仕組みは、すでに現実のものになりつつあります。

業務としては非常に便利です。しかし同時に、
「なぜこの経費は通ったのか」「どのポリシーが適用されたのか」
が、人の側から見えにくくなります。

従来であれば、申請書の項目や承認ルートを通じて、ポリシーや判断基準が可視化されていました。AIによる自動処理では、その「お膳立て」が省略されるのです。

その結果、人がどこで意思決定に関与しているのか、どこに責任があるのかが、かえって曖昧になり始めています。

だからこそ、AI時代においては、プロセスを形式的に守ること以上に、人の側に高いプロセス意識と意思決定意識が求められます。

  • 自分はいま、どの判断レイヤーを担っているのか
  • この判断はAIに委ねてよいのか
  • 人として説明責任を負うポイントはどこか

こうした問いを、経営層、管理層、現場の各レイヤーで自覚的に持つ必要があります。AI時代におけるビジネスプロセスの再定義とは、自動化を進めることではなく、人の判断と責任の位置を、あらためて設計し直すことなのかもしれません。

おわりに

ビジネスプロセスは、時代ごとの前提条件に応じて、その位置づけを変えてきました。AI時代においても、それは終わりません。むしろ、これまで以上に重要になっています。

なぜなら、ビジネスプロセスとは、組織がどのように判断し、どこで責任を持つかを示す設計思想だからです。

Insightisでは、この変遷を踏まえた上で、AI時代におけるビジネスプロセスの再定義を、今後も構造的に考えていきたいと思います。